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震災ノート22-2「散乱の家へ」

20130827

おばあちゃんたちに別れを告げ、
体育館の駐車場に停めっぱなしにしていた車に乗って
電気だけが復旧したと聞いていた地区にある妹のアパートに向かう。


アパートの目の前にある川にも津波が押し寄せて
周辺が浸水したのだが、
ほんの30メートル手前のところで奇跡的に水は止まっていた。



震災後初めて足を踏み入れる妹の家は、
足の踏み場もないほど物が散乱していた。


津波にこそやられなかったが、
激しい揺れであらゆるものが投げ出されたのだ。



本、ノート、書類、粉々になった食器の破片、CD、洋服・・・。


とにかく部屋中のものが吹っ飛ばされ、めちゃくちゃに折り重なっていた。


台所の電子レンジは
ぐるぐる巻きにしてとりつけていた
アースの線が根元から引きちぎられ、床に落下している。


まるで泥棒が来て、故意に荒らしていったかのようだ。



破片だらけの部屋はあまりにも危険で、靴のまま室内に入った。


うっかりはだしで入ってケガをするわけにはいかない。


病院に行けるかどうか、
たとえ行っても治療を受けられるかどうかすらわからない
この時期のケガは、下手をすると命取りになることがある。


足は徹底的に守った。



電力の復旧には立ち合いが必要と聞いて東北電力に電話したところ、
その日の夕方6時ごろに来てくれるという返答だった。


そうは言っても非常時のこと、
すんなりとはいかないことの方が多いだろう。


万が一に備えて懐中電灯を取り出し、
ラジオのNHKをかけっぱなしにした。


まだまだ大きな余震が続いていたし、またいつ津波が来るかわからない。


そうなったらすぐに避難が必要なのだ。


片づけも、命がけだ。




電気がなく、掃除機も使えないので、
玄関のほうきとちりとりでガラスや瀬戸物の破片を掃き出していく。


それと並行して
散らばって互いに積み重なっている物を少しずつどかし、
地道にもとの場所に戻していった。


戻しては掃き、掃いては戻し。


何層にも重なる地層をひとつひとつはがして行くような作業に
気が遠くなりそうだったが、
それでも少しずつ部屋が整うたびに
もとの穏やかな暮らしが戻って来るような気持ちになった。


気がついたころにはもう、夕方の6時を過ぎていた。



片付けはまだ半分、
来ると言っていた電力の人は結局あらわれなかった。


かけた電話も通じないので、
懐中電灯のあかりで一夜を過ごすことに決めた。


2人が寝られるだけのスペースを作り、
ガラス片が残っているかもしれないことに備えて
ダンボールを敷いた上にブルーシートを重ね、
毛布をかけて眠りについた。


by hadashinok | 2014-04-30 11:53
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「はだしの圭」の熊谷圭子です。3月11日の震災の体験、そして震災が私の人生にもたらした変容の記録です。http://hadashinok.com/


by はだしの圭
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